当事者の視点
障害当事者の視点を生かしたコンサルタント
わだちは重度障害者の働く場づくりをめざしてきましたが、その源流は愛知県における障害当事者運動にあります。障害者差別が顕著な70年代。名古屋市内には障害者トイレが更生援護施設に1つしかありませんでした。73年、「障害者よ、街に出よう」の新聞への投書から「愛知県重度障害者の生活をよくする会」の運動が始まりました。社会のせいにして閉じこもっているのではなく、障害者自身が自己変革し、社会に訴えることで社会を変えていこうという当事者運動でした。「福祉の街づくり」というのは、労働、移動、自立生活とともに取り組まれた当初からの課題でした。さまざまな形で行政等への働きかけが繰り広げられました。
それから20余年。95年に愛知県の「人にやさしい街づくり条例」が施行された際、わだちは、全国でおそらく初めて、障害当事者団体による街づくりコンサルタントとして名乗りをあげました。長年の運動が下地となって、障害者の仕事につながったのです。近年では、中部国際空港のユニバーサルデザインや、愛・地球博(愛知万博)バリアフリー検討等の業務の委託を受け、基本設計の段階から責任ある立場で関わってきました。2009年に開港する富士山静岡空港のバリアフリー検討業務でも、静岡の仲間たちの声を代弁すべく取り組みました。
わだちの特徴は、肢体不自由だけでなく、視覚障害、聴覚障害、知的障害、高齢者、子育て団体等、さまざまな団体を巻き込み、彼らの意見を学識経験者にオーソライズしてもらう形で計画に反映していくことです。例えば障害者用のトイレ。最近は多目的トイレを作ることが一般的ですが、大きな空間と高価な設備を必要とします。使いやすい多目的トイレを作れば、旅行者や子連れも頻繁に利用するので、いつも使用中になることは、最近のショッピングセンターを見れば明らかです。一方、一般トイレの入口の幅を600mmから800mmに変更することで、ほとんどの車いすの利用者が使えるようになります。中部空港では会議や検証等で延べ1000人を超える当事者の声を集めました。このことによって、中部国際空港は、障害者のためにではなく、「誰もが使いやすい空港を」という目標を達成しました。
愛・地球博でも「外出の機会に恵まれなかった人たちも来られるしかけにしたい」との願いから活発な意見交換がなされ、さまざまな設備、展示、情報提供、人的サービス、並びに当事者が講師となってのスタッフ向けおもてなし研修が採用されました。
この他にも、道路や建築物の設備、通信機器、入力補助ソフトウェア等における実証実験や製品評価、福祉車両販売店におけるスタッフのバリアフリー研修などを受託しています。
近年は、東海豪雨、東日本大震災など被災現場と、特に被災した障害者・高齢者の視点を活かした、災害時の避難支援システムを提案しています。
障害者団体が乗り込んでいくと必ず最初は警戒されるものです。根あかに、めげずに、何度でも足を運ぶことをモットーにしています。